大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第二小法廷 昭和24年(オ)133号 判決

上告人(原告) 東京履物株式会社

被上告人(被告) 特許庁長官

一、主  文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

二、理  由

上告代理人弁理士築平二上告理由第一点について。

論旨は、原判決は、原判決添付B商標の要部を認定したが、その要部に圧倒的價値があるか否かを十分に審理していないから、原判決には審理不盡延いて理由不備の違法があるというのである。しかし、原判決はB商標について「その主要な部分はライオンの頭部に外ならず、黒色に塗り潰された部分乃至は円形は格別の意味若くは称呼を生じないものと認めるのが相当である」と認定判示しているのであつて、所論のように圧倒的重要價値という表現を用いていなくても、原審は審理の結果、ライオンの頭部に重要性を認めたことは明白であるから、毫も審理不盡或は理由不備等の違法はないのである。また商標法第二條第一項第九号の類似商標に関する規定は、商標の混同誤認を防止する目的をもつて設けられたものであつて、原判決がいわゆる隔離的観察による場合、原判決添付のA商標とB商標とは混同誤認のおそれがあるから、これを類似するものと判断したとて、同法の類似の規定を不当に拡張して解釈した違法あるものと言うことはできない。論旨は何れも理由がない。

同第二点、第三点について。

論旨は、原判決添付B商標の指定商品とD商標の指定商品とは相牴触するにかかわらず、原判決が右二つの商標の指定商品が異なるものと認定したのは違法であるというのである。そして上告人がこのような主張をする理由は、D商標が登録されているにかかわらずB商標が登録せられたことによつても、B商標からライオンなる称呼並びに観念は生じないというためであるのであるが、かりにB商標とD商標とが指定商品において相牴触するものと仮定しても、それだけの理由でB商標からライオンの称呼や観念が生じないとは断ずることはできないのである。即ち本訴の爭点はA商標とB商標とが類似するかどうかの点であつて、したがつて後述するように、B商標からライオンなる称呼や観念が生ずる以上、原判決がA商標はB商標と類似するものと認定判断したことに何等の違法はないのである。言い換えれば、たとえ原判決にD商標とB商標の各指定商品についての認定に間違いがあつたとしても、本件の爭点であるA商標とB商標とは類似するものであるとの原判決の究極の判断には何等の影響のないものであるから、論旨は理由がない。

同第四点、第五点、第六点について。

論旨は、B商標に描かれているのは猫であると言い、或はB商標からは「クロタマライオン」「タマライオン」「クロタマネコ」「タマネコ」の称呼や観念を生ずるものであると主張し、更にまたB商標の図形中の動物の首の黒色の部分に軽重がない等種々論ずるところがあるけれども、B商標は一見しても、ライオンの首を描きその周囲の円を黒色に塗り潰したに過ぎないものであることは明白にこれを認めることができるのである。即ち原判決はB商標に関し右と同旨の認定判断を下し、したがつてこれよりライオンの称呼並びに観念を生ずるものと認めた上、これとA商標とを対比して両者は商標法第二條第一項第九号の類似商標と認定判断したものであつて、この間何等実驗則違背その他所論のような違法の点あるを認め難いから、論旨は到底採用に値いしない。

以上のとおり、本件上告は理由がないから、裁判官一致の意見により、民訴第四〇一條第九五條第八九條に則り主文のとおり判決する。

(裁判官 霜山精一 栗山茂 小谷勝重 藤田八郎)

弁理士築平二の上告理由

第一点 原判決は本件商標(原判決第一目録「A」の商標、以下「A」と称する)は引例商標(原判決第二目録「B」の商標、以下「B」と称する)商標と共に「ライオン」の呼称及び観念を生ずるものと認定され且つ指定商品も牴触するから被告人が本件「A」商標の登録を商標法第二條第一項第九号の規定によつて拒否したのは已むを得ないと判定された。而し引例の「B」商標が仮りに原判決のように黒く塗り潰された円形内に描いたものが「ライオン」の首だとしても其のライオンクビの図形は黒く塗り潰された円形の黒玉内に小さく描かれ其の裝飾的存在に過ぎないことは引例「B」商標の構成で明白であつて從つてライオンの図形は黒く塗り潰された図形の図形である。黒玉に圧倒されて圧倒重要價値はない。之に反し本件「A」商標は走るライオンの図形の下部にLIONの英語を書いて構成されているから引例「B」商標中のライオンの図形が引例「B」商標の要部であつて本件「A」商標と類似するとしても其のライオンの図形の部分が引例「B」商標の圧倒的重要價値がない限り之で類似であるとすべきでない。

之商標の登録制度は商品の誤認混同を生ずる虞れをなくして不正競爭を防止するものであるから商標の要部が類似する場合でも其の要部が圧倒的重要價値がない限り直に之で類似であると謂うべきでないことは昭和四年(オ)第一一〇四号同年十二月二十四日言渡の大審院の御判決で明らかであるからである。原判決は引例「B」商標の要部を決定したが其の要部が圧倒重要價値があるか否かを審理をしていないから審理不盡の不法であるばかりでなく商標法の所謂類似の規定を不当に拡張して本事案に適用した不法がある。

第二点 原判決は上告人(原告以下上告人と称する)が提出し適法に成立した第四号証(原判決第四目録「D」商標以下「D」商標と指称する)で上告人はライオンの図形については既に引用「B」商標以前に登録され且つ引用「B」商標と指定商品が牴触又は類似商品(原判決は……同一商品を指定……」とあるが誤りであることは昭和二十四年一月二十五日上告人提出の準備書面第二点に明記してある。)を指定して明治四十二年九月二日登録され昭和四年十一月二十二日存続期間更新登録がなされた登録第四二七四一号商標が存在するところから見れば右「B」商標は單に「ライオン」と称呼し観念されなかつたものと云うべきだとの主張に対し右「D」商標は其の指定商品として旧第六十一類靴用鳩目一切、ホーク一切、その他他類に属せない靴附属品一切を限定され本件「A」「B」商標の指定商品が右「D」商標の指定商品と「類」においては同一であるが品目において本件「A」「B」各商標の除外した商品を指定してあつて、指定商品を異にすることになるから右「D」商標が登録されたことがあるから上告人の主張を維持することはできないと認定された。

而し之は全くの誤りである。此の点に関しては被上告人が法廷で以上の主張をなし調査の上次の口答弁論で之を撤回し上告人が昭和五年九月弁理士会が発行した工業所有権法規沿革で立証せようとしたら裁判長が被上告人が認めたから其の必要がないとせられたものである。茲に「B」商標の指定商品を適法に成立した甲第二号証で看るのに旧第六十一類傘杖履物及其の附属品であることは明白であつて之を更に

商標法施行規則第十五條に

「第六十一類傘、杖、靴物及其の附属品

傘、洋傘、杖、靴、下駄、草履、雪駄、鼻緒、爪掛等」

と記載され明らかに「D」商標の指定する商品、靴用鳩目一切、ホーク一切其の他他類に属せざる靴附属品一切は履物の附属品であることは一点の疑いのないところであるから上告人主張の引用「B」商標の指定商品と相牴触することは明らかであつて、本件商標は之を除外して「D」商標と商標は類似するが指定商標が牴触していないが引用「B」商標は之を除外していないことは甲第二号証で明らかであるから引例「B」商標は「D」商標の指定商品とは牴触し類似するものである。然るに「D」商標は「B」商標の登録前に登録されている。從つて單に引例「B」商標が「ライオン」と称呼し観念するものとせば他人の登録商標である「D」商標とは「ライオン」の図形であるから引用「B」商標とは、商標及び指定商品共に類似し商標法第二條第一項第九号の規定する「他人ノ登録商標ト同一又ハ類似ニシテ同一又ハ類似ノ商品ニ使用スルモノ」に該当し同法第二條で登録せられない筋合であるから引用「B」商標が登録されるために少くとも引用「B」商標が單に「ライオン」と称呼し観念されないことを要するからである。事実引用「B」商標は單に「ライオン」と称呼し観念されないことは其の構成上明白であることは前述の通りである。

原判決は此の重大な誤を発見したならば上告人の主張を採用され抗告審決を維持すべきでないとの判断が出て本件「A」商標は商標法第二條第一項第九号の規定の適用なく登録されるべきものとせなければならない筋合であるが之に反対の認定をしたのは理由不備及び審理不盡の不法がある。

第三点 原判決は第二点で詳述したように適法に成立した甲第二号証の引例「B」商標に関し其の指定商品から第四号証「D」商標の指定商品の靴用鳩目一切、ホーク一切その他他類に属せざる靴附属品一切を本件「A」商標と共に除外したと認定したが甲第二号証の商標は「D」商標の指定商品を除外しないで第六十一類傘杖履物及び其の附属品一切を指定している。

而して其の指定商品の除外ありや否やは引用「B」商標が單に「ライオン」と称呼し観念されない結果を生じ從つて本件「A」商標が登録される筋合となるのであるから本事案に関し重大なことがあるのに拘らず原判決は適法に成立した甲第二号証のあるのに拘らず此の証拠に基かないで事実を認定したことに帰着し不法である。

第四点 原判決は甲第二号証によると「B」商標は黒く塗り潰した円形内の上部「ライオン」が頭部にあり円形乃至黒く塗り潰した円形の部分は格別の意味がなくこの部分から特別の称呼を生じないと認定したが而し引用「B」商標は顕著に黒玉の円形を描いて其の黒玉の上部に「ライオン」とも猫ともつかない図形を小さく描いたもので其の構成自体からすれば黒玉の図形が「ライオン」ともつかない図形を圧倒している関係にあつていくらよく看ても両者が構成上軽重ない程度以上に看られない商標は其の構成自体格別意味のないことがある。要は商品の甄別力があればよいのである。

如之黒玉又は手毬に猫がよくじやれることは顕著な事例であるからすれば引例「B」商標は寧ろ猫頭として取扱れることが敏活を尊ぶ商取引にふさわしい。甲第二号証によれば引例「B」商標は「ライオン」の髭の存在などは把捉できない状態であるから商標それ自体からすれば仮に原判決のように引例「B」商標の黒玉中の図形がライオンの頭であるとして原判決のように其のライオンの頭が主要部で黒玉の図形が從であるとは考えられないで少くとも黒玉と「ライオン」の頭の図形が軽重のない構成であり両者が不可分的一体のものと呼称及び観念を生ずるものとせなければならない。そうすることが甲第四号証「D」商標の登録後引用「B」商標(甲第二号証)が指定商品が甲第四号証の「D」商標と牴触するのに拘らず登録される理由も説明できる。

之商標の構成に於て軽重のない文字と図形とから成る場合でさえ特別の事情がない限り其の称呼及び観念を不可分的一体のものと観察して之を決すべきであることは昭和三年(オ)第四十九号同年七月九日言渡の大審院第一民事部御判決によつて明らかで引例「B」商標で特に顕著な黒玉の図形を閑却してライオンの頭の図形からばかりを称呼及び観念の基準とするに足る特段の事情がなければならない。而し原判決は其の首肯するに足る特別の理由を挙示せないで「B」商標を「ライオン」の図形ばかりに留意してライオンと称呼し観念するものにして本件「A」商標と類似するものと断定して本件請求を排斥したのは、実則の違背か又は少くとも、理由不備の違法がある(昭和三年(オ)一三九三号、同四年四月四日言渡の大審院第一民事部御判決御参照)

第五点 原判決は甲第三号証(原判決表示第三目録「C」商標以下C商標と指称する)は橢円形中に「ライオン」を描いてその背後に太陽を表わしたもので其の上部に「SUN LION」の文字があつて此の場合は前記各構成を一括して單に「ライオン」という称呼及び観念を生ぜないものと判定し又更に太陽を背景として「ライオン」を橢円形に描いた商標(原判決表示第五目録「E」商標)仍ち前記「C」商標から「SUN LION」の文字を除去した商標及びライオンの横記した商標(原判決表示第六目録「F」商標)について商標の出願公告の決定があつても上告人主張のような推論はできないと判示しているが上告人は前記各号証は「ライオン」の図形が顕著に描いていても他の図形又は文字とが其の構成上軽重がないときは各不可分的一体のものとして観察して称呼及び観念を生じ單に「ライオン」とばかりから称呼及び観念を生じない立証としたのであつて引用「B」商標との混同誤認を生ずる虞があると謂うのではない。此の証拠によつて上告人の引例「B」商標のような黒玉と猫又は「ライオン」の頭の図形との構成が圧倒重要價値の関係がないとしても両者が不可分的一体のものと「クロタマライオン」「タマライオン」又は「クロタマネコ」若くは「タマネコ」と称呼し観念され仮りに黒玉内の円形が原判決のように「ライオン」の頭としても「クロタマライオン」又は「タマライオン」と称呼し観念され單に「ライオン」とは称呼し観念さるべきでないことを立証としたのであるが原判決は之実驗則にも適合しているに対し首肯するに足る特別の理由を挙示しないのは理由不備か審理不盡の違法である。

第六点 商取引上引用「B」商標は黒玉の図形に裝飾的に描いた円形は髭が容易に判定できないことと玉に猫がじやれることから市場に於いては却つて猫と観察するのが商取引の市場に於ける一般の注意力を標準として実驗則に適合しているとするのが普通であつて原判決のように漫然と「ライオン」の首を引きたゝせるため円形を黒く塗り潰したものとして本件「A」商標と引例「B」商標と類似であるとしたのは商取引の実驗則を無視し且つ市場に於ける一般購買者の普通に用いる注意力を基準として商品の混同誤認を生ずるか否かで決定したものでないと謂える。抑商標は商品の標識であるから其の類否は商取引の実驗則に照應し且つ市場において一般購買者の其の種の商品を購入するに当り普通に用いる所の注意力を基準として商品の混同誤認を生ずるか否かで決定すべきであることは昭和四年(オ)第九一二号同年十二月十七日言渡の大審院第二民事部判決及び昭和十四年(オ)第七七二号大審院御判示によつて明らかであるから原判決は結局商取引の一般注意力を基準とせず且つ実驗則に違背した違法であると謂うべきである。

以上の理由で原判決は執れにしても破毀を免れないものと確信するからである。なお本件訴訟記録の取寄せ通知は昭和二十四年六月九日其の通達を受けたから念のため申し添えるものである。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!